「スウェーデンの人は歯が丈夫」という話を、雑誌や歯科医院の待合室で目にしたことはありませんか。
ライターの吉岡朋子です。
今回は、予防歯科の手本として語られることの多いスウェーデンの仕組みと最新の数字を、日本と並べて見てみました。
調べてわかったのは、真似したいのは制度よりも、毎日の歯みがきの「最後のひと手間」と、歯医者さんとの付き合い方だということです。
目次
スウェーデンが「予防大国」と呼ばれる理由
子どもの歯の治療費は19歳まで無料
スウェーデンでは、子どもと若い人の歯科診療が無料です。
検査もクリーニングも、むし歯の治療も、家計の心配をせずに受けられます。
小さいころから「歯医者さんは痛くなる前に行く場所」という感覚が自然に育つのは、この仕組みの力が大きいのだと思います。
ただ、この上限年齢はずっと同じだったわけではありません。
スウェーデン社会庁(Socialstyrelsen)の歯科統計2025年版によると、2017〜2019年にかけて19歳から23歳まで段階的に引き上げられ、2025年1月からは再び19歳に戻りました。
同じ報告書では、この10年で歯科を受診する人の割合が最も大きく減ったのは20〜23歳だったとされています。
無料でなくなると足が遠のく。
どこの国の人も、そこは同じなのだと少しほっとしました。
2026年からは67歳以上の治療費も軽く
大人になると自己負担が生じますが、国の補助制度があり、治療費が一定額を超えると自己負担が軽くなる仕組みもあります。
2026年1月からは、高齢の方向けの新しい制度も始まりました。
カロリンスカ研究所の歯科クリニックの案内ページによると、この年に67歳になる人とそれより上の人は、前歯から数えて5番目までの歯の治療を、基準価格の1割の負担で受けられます。
「ten-tooth care(10本の歯のケア)」という呼び名のとおり、人前で笑ったときに見える歯を守るための制度です。
おもしろいのは、検査やクリーニングといった予防処置、レントゲンはこの1割負担の対象外とされている点です。
見た目に関わる歯は国が支えるけれど、日々の手入れは自分で続けてくださいね、というメッセージのように私には読めました。
数字で並べると、日本との差は思ったほど単純ではない
「定期検診の受診率90%」はどこから来たのか
健康・美容の記事を編集していたころ、「スウェーデンの定期検診受診率は90%、日本は2%」という比較を何度も目にしました。
印象的な数字なので、私も使いたくなった記憶があります。
けれど、今回スウェーデン社会庁の最新統計を読むと、2025年に歯科を受診した20歳以上の人は女性で54.7%、男性で47.7%でした。
70〜84歳では7割を超えますが、全体ではおよそ半分です。
この統計は国の歯科補助の対象になった受診だけを数えているので実際はもう少し多いはずですが、それでも「9割」とはだいぶ印象が違います。
「80歳のスウェーデン人は歯が25本ある」という話も、書き手によって20本だったり21本だったりと数字がまちまちでした。
今回は元になった公的統計までたどり着けなかったため、この記事では使わないことにしました。
古い数字や出どころのわからない数字が、何年も引用され続けることがあるのは、雑誌の世界でもよく見てきたことです。
日本の数字も、この数年で動いている
一方の日本も、ここ数年で数字がはっきり上向いています。
厚生労働省の歯科健診等のあり方等に関する検討会の資料から、主な値を拾ってみました。
| 項目 | 以前の値 | 最新の値 |
|---|---|---|
| 80歳で自分の歯が20本以上ある人(8020達成者) | 51.6%(2022年) | 61.5%(2024年) |
| 過去1年に歯科検診を受けた人 | 58.0%(2022年) | 63.8%(2024年) |
| 40歳以上で歯周炎がある人 | ー | 47.8%(2024年) |
聞き取りによる日本の受診率と、診療記録をもとにしたスウェーデンの受診率は、数え方が違うのでそのまま比べることはできません。
それでも「日本人は歯医者に行かない」という思い込みは、少なくとも今の数字には当てはまらないようです。
むしろ気になるのは、40歳以上の半数近くに歯周炎があることのほうでした。
スウェーデン流のセルフケアで、今日から真似できること
磨いたあとは吐き出すだけ、すすがない
制度は真似できなくても、習慣なら今夜から取り入れられます。
スウェーデンの歯科で子どもから大人まで繰り返し教えられているのが、フッ素入りの歯みがき粉で磨いたら、泡を吐き出すだけで水ですすがない、という方法です。
口の中にフッ素を残しておくことで、歯の表面が修復されやすくなるという考え方です。
取材でお世話になっている歯科衛生士さんにこの話をすると、「日本の方は5回も6回もうがいをして、せっかくのフッ素を全部流してしまうんですよ」と笑っていました。
私自身、口の中がさっぱりするまでしっかりすすぐのが当たり前だと思っていたので、耳の痛い話でした。
日本の学会もほぼ同じことを勧めている
これは北欧だけの特別な習慣ではありません。
日本口腔衛生学会など4つの学会が2023年1月にまとめたフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法でも、6歳以上の人について次のように示されています。
- 歯みがき粉は歯ブラシ全体にのせる(1.5〜2cm程度)
- フッ素の濃度は1400〜1500ppmのものを選ぶ
- 寝る前を含めて1日2回みがく
- みがいたら歯みがき粉を軽く吐き出し、うがいは少量の水で1回だけにする
濃度はパッケージの成分表示に「1450ppm」などと書かれていることが多いので、次に買うときに裏側を見てみてください。
すすぎを1回にするのは、慣れるまで少し落ち着かないかもしれません。
私は最初の1週間ほどで気にならなくなりました。
歯ぐきが下がり始める年代こそフッ素を
40代、50代になると、歯ぐきが少しずつ下がって、歯の根元が見えてくる方が増えてきます。
根元の部分は表面のエナメル質に比べてやわらかく、むし歯になりやすい場所です。
先の4学会の推奨では、こうした根元のむし歯の予防に、さらに濃度の高い5000ppmの歯みがき粉が効果的だとしたうえで、日本ではまだ販売されていないと書かれています。
多くの先進国では歯科医師が処方しているそうです。
日本で手に入る範囲では、1450ppmの歯みがき粉を「すすぎ1回」で使うことが、いちばん身近な予防になります。
「自分に合った間隔」で通うという発想
通う間隔はリスクで決める
スウェーデンの統計で私が目をとめたのは、受診率よりも「検査と検査のあいだの日数」でした。
公営の歯科で平均735日、民間の歯科で416日と、2年近く間が空くこともある数字です。
スウェーデンでは、むし歯や歯周病のなりやすさに合わせて、次に来る時期を一人ひとり決める考え方が根づいています。
口の状態が安定している人は間隔を長めに、リスクの高い人は短めに、という具合です。
「みんな3か月ごと」ではなく、「あなたはこのくらい」と言ってもらえるほうが、通う理由に納得できますよね。
次の検診で聞いてみたいこと
日本でも、聞けばきちんと答えてくれる歯科医院は多いはずです。
次の検診では、こんなふうに尋ねてみてはいかがでしょうか。
- 「私の口は、むし歯と歯周病のどちらに気をつけたほうがいいですか」
- 「次はどのくらいの間隔で来るのがよさそうですか」
- 「今使っている歯みがき粉の濃度と使い方で合っていますか」
私も最初は、忙しそうな先生を引き止めるようで気が引けました。
けれど一度聞いてみると、歯ぐきの状態を鏡で見せながら説明してもらえて、次の予約を取るのが少し楽しみになりました。
まとめ
スウェーデンの歯科を覗いてみると、子どもの治療費の無料化や高齢者の負担軽減など、国全体で歯を守る仕組みがありました。
その一方で、よく引用される「受診率90%」のような数字は、最新の統計とはずいぶん違っていました。
日本の8020達成者はすでに6割を超えていて、私たちは思っているほど遅れてはいないのかもしれません。
暮らしに取り入れられるのは、フッ素入りの歯みがき粉を歯ブラシ全体にのせて、すすぎを1回で終えること。
そして、自分の口にはどんな注意が必要で、どのくらいの間隔で通えばいいのかを、歯医者さんに聞いてみることです。
茶道のお稽古と同じで、毎日の小さな所作を丁寧に続けることが、10年後、20年後の口元をつくっていくのだと思います。