ドラッグストアの棚の前でしばらく迷って、結局いつもの1本を手に取る。
私も長いことそうでした。
ライターの吉岡朋子です。
歯科医院での取材を重ねるうちに、マウスウォッシュは「口臭に効きそうか」だけで選ぶものではないと分かってきました。
成分が違えば、届く場所も、効かせるタイミングも変わります。
殺菌・フッ素・低刺激という3つの軸から、あなたの口に合う1本の探し方と、効果を落とさない使い方までお伝えします。
目次
そのボトルは洗口液ですか、液体歯磨きですか
すすいで終わるものと、磨くためのもの
洗口液は、適量を口に含んですすぎ、吐き出すだけで使います。
歯ブラシは登場しません。
液体歯磨きのほうは口に含んでからブラッシングをするもので、ペースト状の歯みがき剤が液体になったものと考えると分かりやすいです。
日本歯科医師会のウェブマガジンでも、洗口液は歯みがきの補助、液体歯磨きは歯みがき剤の一種として整理されています(液体ハミガキと洗口液の違い、わかりますか?)。
よく似たボトルが同じ棚に並んでいますが、役割は別ものです。
液体歯磨きをブクブクするだけで終わりにしていた、という話は取材先でもよく聞きました。
裏面の「医薬部外品」を確かめる
次に見てほしいのは、ボトルの裏や側面にある小さな表示です。
洗口液は「化粧品」と「医薬部外品」に分かれていて、日本歯磨工業会もこの2つは規制の枠組みが違うと説明しています。
化粧品に分類されるものは、口の中を清潔にして香りで口臭を覆うのが主な役割。
医薬部外品には殺菌成分などの有効成分が入っていて、歯肉炎の予防といった効能をうたえます。
使ったあとの爽快感はどちらもよく似ていますから、表示を見ないと区別がつきません。
歯みがきの代わりにはなりません
ここははっきり書いておきます。
マウスウォッシュは、歯ブラシで落とす作業の代役にはなりません。
歯面にこびりついたプラークは、薬剤ですすいだくらいでは剥がれてくれないからです。
実際、洗口剤はブラッシングなど機械的にプラークを落とす方法の補助だと、日本歯周病学会の解説でも位置づけられています。
歯ブラシとフロスで落としきれなかったところ、届きにくかったところを薬剤で支える。
そういう関係だと思ってください。
磨いたうえで足すもの。
この位置づけさえ外さなければ、選び方の話はぐっとシンプルになります。
悩み別に見る、マウスウォッシュ3つのタイプ
悩みを一つに絞ってから棚に向かう
売り場が難しく感じるのは、どのボトルにも「口臭」「歯周病」「ホワイトニング」と並んで書いてあるからです。
先に自分の悩みを一つ決めておくと、候補は一気に減ります。
歯ぐきが気になるのか、むし歯が心配なのか、それとも乾きやしみる感じなのか。
手がかりになるのは、毎朝の洗面所での自覚です。
歯ブラシに血がつく、歯ぐきがぷっくりして見える日があるなら、歯ぐきの側の問題。
冷たいものがしみる、詰め物のふちがざらつくと感じるなら、むし歯寄りの問題です。
口臭が一番の悩みという方も多いのですが、においのもとは舌の汚れや歯周病そのものにあることが少なくありません。
洗口液で香りをかぶせても、原因が残っていれば数時間で戻ってきます。
3タイプの早見表
| タイプ | 代表的な有効成分 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 殺菌タイプ | CPC、グルコン酸クロルヘキシジン、エッセンシャルオイル | 歯ぐきの腫れや出血、口臭が気になる |
| フッ素タイプ | フッ化ナトリウム | むし歯を繰り返す、歯の根元が心配 |
| 低刺激タイプ | ノンアルコール処方、保湿成分 | 口が乾く、しみる、刺激が苦手 |
全部入りの1本を探さない
欲張って多機能なものを選びたくなりますが、私はおすすめしていません。
殺菌成分とフッ素は、力を発揮する使い方がそもそも噛み合わないからです。
理由は最後の章で書きますが、目的を一つに絞ったほうが、結果として長く続きます。
洗面台に2本置いて、朝はこちら、夜はこちらと使い分ける方法もあります。
取材でお会いした歯科衛生士さんは、日中の口臭対策と夜のむし歯予防を1本で済ませようとするから中途半端になるのだと話していました。
殺菌タイプは「成分がどこまで届くか」で変わります
歯の表面にとどまるタイプ
日本歯周病学会の解説によると、洗口剤の殺菌成分は届く場所によって大きく2つに分けられます(歯科衛生士が知っておきたい洗口剤の応用)。
ひとつは、歯の表面や細菌のかたまりの表面にくっついて働くタイプ。
CPC(塩化セチルピリジニウム)やグルコン酸クロルヘキシジンがこちらにあたります。
歯面に吸着して、プラークが再びつくのを抑えてくれるのが持ち味です。
磨いたあとのきれいな状態をできるだけ長持ちさせたい方に向いています。
細菌のかたまりの奥まで入り込むタイプ
もうひとつは、細菌のかたまりの内部まで浸透して、短い時間で殺菌するタイプです。
エッセンシャルオイル(メントール、チモール、ユーカリプトールなど)やポビドンヨードが該当します。
歯周病向けの製品に配合されるIPMP(イソプロピルメチルフェノール)も、この浸透するグループの仲間です。
同じ学会誌では、エッセンシャルオイル配合のリステリンの浸透速度が、クロルヘキシジンの4.89倍だったという研究も紹介されています。
歯みがきと歯みがきの間、日中に使うならこちらのタイプが向きます。
日本の製品が薄いのには理由があります
海外の歯科で使われるクロルヘキシジン洗口液は0.12〜0.2%が標準です。
ところが日本では、原液で0.05%までと決められています。
国内でアナフィラキシーショックの報告があったためで、実際には薄めて0.01%程度で使われることが多いそうです。
「海外のほうが効きそう」と個人輸入を検討する方にときどきお会いしますが、この経緯を知ると私は慎重になったほうがいいと思います。
クロルヘキシジンには、歯の着色や味覚の変化、歯石がつきやすくなるといった副作用も報告されています。
CPCについても過敏症や刺激感が挙げられていますから、成分が強ければ良いという単純な話ではありません。
そもそも、うがいで薬剤が歯周ポケットに入るのは0.5mm程度まで。
歯周病が進んでいる場合、洗口液だけでどうにかしようとするのは無理があります。
フッ素タイプは、大人こそ使う価値があります
すすがないから、フッ素が口に残る
フッ素配合の洗口液の良さは、使ったあとに水ですすがない点にあります。
歯みがき剤に入っているフッ素は、うがいでかなりの量が流れていきます。
洗口液なら、歯と歯の間や歯と歯ぐきの境目まで行き渡ったフッ素が、そのまま口の中にとどまってくれます。
子ども向けというイメージは、もう古い
フッ素洗口は学校でやるもの、という印象が強いかもしれません。
日本歯科医師会のテーマパーク8020でも、推奨年齢は4歳頃から12〜14歳頃と案内されています。
一方で、厚生労働省のフッ化物洗口マニュアル(2022年版)には、成人や高齢者のむし歯の再発防止、歯の根元にできる根面う蝕の予防にも効果があると記されています。
歯ぐきが下がって根元が見えはじめる40代以降こそ、出番があると私は感じています。
市販品の使い方と、就寝前という時間帯
市販のフッ素洗口液には、フッ化物イオンとして225ppmを含む第3類医薬品があり、4歳から大人まで1日1回使えます。
手順そのものは拍子抜けするほど簡単です。
- 歯みがきのあと、製品の指示に従って5〜10mLを口に含む
- 30秒から1分ほど、歯全体に行き渡るようにブクブクする
- 吐き出したあとは水ですすがない
- そのあと30分程度は飲食を控える
就寝前が向いているのは、寝ている間は唾液の分泌が減り、フッ素が長く口の中にとどまるからです。
ご家族で使う場合、4歳未満のお子さんは対象外になります。
ぶくぶくうがいがまだ上手にできず、誤って飲み込むおそれがあるため、厚生労働省のマニュアルでも対象としないと明記されています。
上のきょうだいと一緒に、と考えたくなる場面ですが、ここは待ってあげてください。
アルコールの有無は、効き目の目安になりません
ピリピリするから効いている、ではない
アルコール(エタノール)は、成分を溶かす目的で入っていることが多いものです。
あの刺激が強いほど殺菌力が高い、という関係ではありません。
先ほどの学会誌でも、アルコールを含む製品ではドライマウスや味覚障害が副作用として挙げられています。
低刺激を選んだほうがいい人
刺激の強いタイプを避けたほうがいいのは、こんな方たちです。
- 口の乾きが気になる、または薬の副作用で唾液が減っている
- 口内炎ができやすい、粘膜に傷がある
- 矯正装置が入っていて口の中がこすれやすい
- 刺激が苦手で、結局続かなかった経験がある
私自身、口の乾きを感じる日が増えたころに刺激の強いものをやめました。
低刺激に替えてから、洗面所で手に取る回数が明らかに増えています。
選ぶときは、ノンアルコールという表示だけで判断しないほうが安心です。
乾きが気になるならヒアルロン酸やグリセリンといった保湿成分が入っているか、粘膜が弱っているならメントールの効かせ方はどうか。
そこまで見ておくと、使ったあとのつらさがずいぶん減ります。
続けられる香りかどうか
身も蓋もない話ですが、香りが自分の好みかどうかは大事です。
洗口液の効果は継続して使ってはじめて現れる場合が多いと、学会誌にも書かれています。
どれほど成分が優秀でも、「今日はいいか」と思ってしまう1本では意味がありません。
使い方ひとつで、効果は半分になります
歯みがき粉の泡が、殺菌成分を打ち消す
これは取材で聞いて驚いた話です。
歯みがき剤に入っている発泡剤や研磨剤はマイナスに帯電していて、プラスに帯電しているCPCやクロルヘキシジンの働きを弱めてしまいます。
磨いた直後、泡が残ったままの口に殺菌タイプを流し込んでも、成分は本来の力を出せません。
殺菌タイプを使うなら、まず水で歯みがき剤を落としてから。
ひと手間かかりますが、ここを変えるだけで結果が変わります。
ちなみにエッセンシャルオイル系にはこの相性の問題がないと、同じ解説に書かれています。
フッ素を残したいなら、逆に時間を置く
歯みがき剤のフッ素を歯に留めたい場合は、話が反対になります。
磨いた直後に洗口液でうがいをすると、せっかくのフッ素が流れてしまうからです。
学会誌では、ブラッシング後は30分程度あけてから洗口するのが望ましいとされています。
陽イオン系の殺菌成分を活かすには歯みがき剤を洗い流したい。
けれどフッ素を活かすには、洗い流さずに置いておきたい。
1本で両方を狙うと、どちらかが必ず割を食います。
目的を一つに絞ったほうがいいと申し上げたのは、この事情があるからです。
仕上げに水ですすがない
最後に水でゆすぐ習慣のある方は、そこでやめてみてください。
有効成分がそのまま流れていってしまいます。
日本歯科医師会も、洗口液・液体歯磨きのどちらについても、使用後は水ですすがないよう案内しています。
量と時間の目安も添えておきます。
一般的な洗口液は10〜20mL、フッ素洗口液は5〜10mLを口に含み、30秒から1分ほどブクブクするのが基本です。
慣れてくると5秒ほどで吐き出してしまいがちですが、それでは成分が全体に行き渡りません。
鏡を見ながら心の中で30まで数えるくらいが、ちょうどいい長さです。
まとめ
マウスウォッシュ選びは、成分表を暗記する作業ではありません。
自分の口がいま何に困っているかを一つ決めて、その悩みに合う成分を選ぶ。
あとは、成分が力を出せるタイミングで使う。
この順番さえ押さえれば、棚の前で迷う時間はずいぶん短くなります。
歯ぐきが気になるなら殺菌タイプを、泡を落としてから。
むし歯が心配ならフッ素タイプを、寝る前に。
乾きやしみる感じがあるなら、迷わず低刺激を。
取材でお会いした歯科衛生士さんは、みなさん最後に同じことをおっしゃいます。
いちばん良いのは、続けられる1本ですよ、と。
今日の帰り道、いつもの棚の前でボトルを一度ひっくり返してみてください。