取材で歯科医院にお邪魔すると、待合室でこんな声を耳にすることがあります。
「あんなに白くなったのに、最近また戻ってきた気がして」。
高い費用と時間をかけたぶん、鏡を見るたびに気になってしまうのだと思います。
はじめまして、ライターの吉岡朋子と申します。
女性誌の編集者として健康と美容の記事を担当したのち、五十歳を前にフリーになりました。
今は歯科医師や歯科衛生士の方々と一緒に診療現場を見せていただきながら、口元の健康について書いています。
この記事では、ホワイトニング後の色戻りがどうして起きるのか、そして白さをできるだけ長く保つために毎日できることを整理しました。
特別な道具も、我慢だらけの生活も必要ありません。
知っているかどうかで差がつく、小さな習慣のお話です。
目次
ホワイトニングの「色戻り」は、なぜ起きるのか
「色が戻る」とひとことで言っても、実は性質の違う二つの変化が同時に進んでいます。
ここを切り分けて理解しておくと、対策の的が定まります。
表面に「つく」色と、内側から「戻る」色
ひとつは、歯の表面に新しく色素が付着していく変化です。
ライオン歯科衛生研究所の解説では、外因性の着色を「飲食品に含まれる色素やタバコのヤニ(ニコチン、タール)などが歯の表面に固着したもの」と説明しています。
こちらは日々のケアや歯科医院でのクリーニングで落とせる、いわば後からついた汚れです。
もうひとつは、歯そのものの色味が少しずつ元へ近づいていく変化です。
ホワイトニングの薬剤は歯の内部にある色素を分解しますが、その効果は永久に続くものではありません。
加齢によってエナメル質が薄くなり、内側の象牙質の黄色みが透けやすくなることも、白さが落ち着いて見える理由のひとつです。
なお、施術を終えた直後の歯は一時的に水分が抜けて、実際より白く見えています。
数日で少し落ち着くのは自然な変化で、色戻りとは別のものです。
「翌週にはもう戻った」と感じる方の多くは、この見え方の差を拾っています。
白さが落ち着くまでの目安期間
どのくらいで戻るのかは、選んだ方法によって傾向が異なります。
おおまかな目安を表にまとめました。
| 方法 | 白さを実感しやすい速さ | 色戻りを感じ始める時期 |
|---|---|---|
| オフィスホワイトニング(歯科医院で施術) | 1回でも変化が出やすい | 3〜6か月ごろ |
| ホームホワイトニング(自宅でマウスピース) | 2週間ほどかけてゆっくり | 6〜12か月ごろ |
| デュアルホワイトニング(両方を併用) | 早く、かつ深く入る | 1年前後まで保ちやすい |
自宅で低濃度の薬剤をじっくり効かせるホームホワイトニングのほうが、色は戻りにくい傾向にあります。
急いで白くするか、ゆっくり長く保つか。
ご自身の予定と性格に合うほうを選んでいただくのがいちばんです。
戻るスピードは人によって違う
同じ施術を受けても、半年後の色には差が出ます。
一日に何杯コーヒーを飲むか、喫煙するか、唾液の量が十分かといった条件が、そのまま結果に表れるためです。
唾液は口の中を洗い流し、歯の表面を修復してくれる存在です。
加齢や薬の副作用、口呼吸などで唾液が減っている方は、色素が留まりやすくなります。
「私は戻るのが早い気がする」という実感には、たいてい理由があります。
最初の48時間が、その後の白さを左右する
色戻り対策でいちばん効くのは、実は施術当日から二日間の過ごし方です。
ここを丁寧に越えられるかどうかで、その後の数か月が変わってきます。
ペリクルという膜が外れている状態
歯の表面には、唾液に含まれるタンパク質でできた「ペリクル」という透明の薄い膜があります。
むし歯菌の出す酸から歯を守り、溶け出したミネラルを取り込む手助けをしてくれる、ありがたい存在です。
その一方で色素を抱え込みやすい性質もあり、着色の入り口にもなっています。
ホワイトニングの薬剤は、このペリクルをいったん剥がして歯に作用します。
つまり施術直後の歯は、守りの膜を外して素肌をさらしている状態です。
膜が元どおりに整うまでには12時間から48時間ほどかかると説明されています。
洗顔した直後の肌に何もつけずに外へ出るのは心もとない。
歯にも、似たような時間帯があると考えていただくと分かりやすいと思います。
この時間帯に控えたい飲食物
歯科衛生士さんに教わって、私自身が取材メモに書き留めている分類がこちらです。
| 控えたいもの | 比較的安心なもの |
|---|---|
| コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶 | 水、ミネラルウォーター、牛乳 |
| 赤ワイン、ぶどうジュース、ココア | 白ワイン(酸性なので量は控えめに) |
| カレー、ミートソース、キムチ | 白身魚、鶏肉、豆腐、白いごはん |
| 醤油、ソース、ケチャップ、味噌 | 塩、レモンを使わない薄味の調理 |
| チョコレート、ベリー類、色の濃い漬物 | バナナ、ヨーグルト、クリームシチュー |
思いのほか和食に着色源が多いことに、私は最初驚きました。
醤油も味噌も、毎日の食卓から外しにくいものばかりです。
この二日間だけは白身魚に塩とオリーブオイル、といった献立に寄せていただくと乗り切りやすくなります。
迷ったときの見分け方
見慣れない食品を前に迷ったら、私は「白いブラウスにこぼしたらシミになるか」で判断しています。
洗濯で落ちにくいものは、歯にも残りやすい。
おおよそこの感覚で外れません。
もうひとつ、うっかり色の濃いものを口にしてしまった場合の対処も覚えておいてください。
すぐに水を含んで口の中を流せば、色素が居座る時間を短くできます。
完璧にできなかった日があっても、そこで諦める必要はまったくありません。
白さを長持ちさせる、食べ方・飲み方の習慣
二日間を越えたあとは、無理のない範囲で続けられる習慣に切り替えます。
ここからは長期戦ですから、頑張りすぎないことがかえって効きます。
色の濃いものを口に留めない
着色は、色素が歯に触れている時間の長さに比例して進みます。
同じ一杯のコーヒーでも、飲み方によって残り方が変わります。
- 一杯を少しずつ長時間かけて飲まず、区切りをつけて飲み切る
- 飲んだあとに水をひと口含んで、口の中を流す
- アイスコーヒーや紅茶はストローを使い、歯の前面を通さない
- 食後すぐに磨けないときは、緑茶ではなく水でうがいをする
デスクにマグカップを置いて午前中ずっとちびちび飲む習慣は、着色という点ではあまり味方になってくれません。
私も原稿を書きながらそれをやっていたので、今は水のボトルを隣に並べるようにしました。
酸性の飲みもののあとは、すぐ磨かない
意外に見落とされがちなのが、酸との付き合い方です。
神奈川県歯科医師会の歯が溶ける!?「酸蝕症」とは?という解説では、口の中がpH5.5以下になると歯は溶けやすくなると説明されています。
炭酸飲料、柑橘系のジュース、黒酢、スポーツ飲料、ワインなどが該当します。
エナメル質の表面がわずかに軟らかくなっているところをブラシでこすると、表面に細かい傷が残ります。
その傷に色素が入り込み、かえって着色しやすい歯になってしまうという流れです。
同会は、酸性の飲食物のあとは水で口をゆすぎ、歯みがきまで30分ほど間をあけることをすすめています。
寝る前のワインやレモン水も、白さを保ちたい時期は量と時間を意識してみてください。
就寝中は唾液が減り、口の中が酸性に傾いたまま朝を迎えることになります。
好きなものをやめる必要はありません
こうして並べると窮屈に感じられるかもしれませんが、私は「やめましょう」とは書きたくありません。
コーヒーの香りも、赤ワインの一杯も、日々の楽しみです。
取材でお会いした歯科医師の先生方も、口をそろえて「禁止ではなく、後の一手を決めておくこと」とおっしゃいます。
飲んだら水を含む。
色の濃い食事の日はクリーニングの予約を思い出す。
その程度の折り合いで、半年後の色は十分に変わってきます。
毎日のセルフケアで差がつくところ
歯みがきは毎日のことだけに、選び方と当て方の違いが積み重なります。
ここでは、白さを保つという視点に絞ってお伝えします。
歯みがき剤は「削る」より「つきにくくする」で選ぶ
着色を落とそうとして、研磨力の強い歯みがき剤を選ぶ方は少なくありません。
たしかに表面の汚れはある程度落ちますが、毎日強い力で使い続けると、エナメル質に負担がかかります。
表面が粗くなれば色素の受け皿が増えてしまい、狙いと逆の結果になりかねません。
ホワイトニング後の時期に向くのは、歯の表面を整えて汚れをつきにくくするタイプです。
ポリリン酸ナトリウムやハイドロキシアパタイトを配合したものが、この考え方に沿っています。
研磨剤入りの製品を使う場合も、毎日ではなく週に一、二度に留めるほうが安心です。
ブラシは軟らかめを選び、力は「歯ブラシの毛先が広がらない程度」に。
これは診療室で衛生士さんが必ず口にする言葉で、私も自分の磨き方を直すきっかけになりました。
着色が始まりやすい場所を知っておく
着色は歯の面全体に均一につくわけではなく、決まった場所から始まります。
鏡でここを見る習慣をつけておくと、変化に早く気づけます。
- 前歯の裏側(舌側)。舌で触れてざらつきを感じたら要注意です
- 歯と歯ぐきの境目のわずかな溝
- 歯と歯のあいだの、ブラシの届きにくい面
- 歯並びが重なっている部分の内側
歯と歯のあいだは、どれだけ丁寧にブラシを当てても届きません。
デンタルフロスや歯間ブラシを一日一回、夜だけでも通していただくと、数か月後の見え方が違ってきます。
唾液を減らさない
唾液は、天然のクリーニング液のようなものです。
量が保たれていれば、色素は流され、歯の表面も修復されていきます。
こまめな水分補給に加えて、食事のときによく噛むこと。
ガムを噛む、口を閉じて鼻で呼吸するといった工夫も、唾液の分泌を助けます。
喫煙は唾液を減らし血流も悪くするため、白さという点でも歯ぐきの健康という点でも、控えめにしていただきたいところです。
加熱式タバコは紙巻きに比べてタールが少なく、ヤニによる着色は軽い傾向にあります。
ただしニコチンによる唾液の減少は変わらないため、「着色しないから安心」とまでは言い切れません。
歯科医院と組み合わせて白さを保つ
セルフケアだけで守り切ろうとすると、どうしても限界があります。
定期的にプロの手を借りることが、結局はいちばん経済的です。
定期クリーニングの目安
歯科医院で受けられる専門的なクリーニングでは、自宅では落としきれない着色や歯石を取り除いてもらえます。
着色が気になりやすい方は3か月ごと、そうでない方は半年ごとを目安に予約を入れておくと、色が濃く固着する前にリセットできます。
日本歯科医師会のテーマパーク8020でも、ホワイトニングの前には診断とクリーニング、必要に応じた処置を行うと説明されています。
白くする前も、白さを保つあとも、土台となるのは口の中の清潔さです。
タッチアップという選択肢
色が戻ってきたと感じたときに、追加でホワイトニングを行うことを「タッチアップ」と呼びます。
歯科材料メーカーのジーシーが運営する医療ホワイトニング.jpでは、タッチアップによって初回よりも早く、少ない回数で白さが戻ると説明されています。
一度白くした歯は、次からの反応がよくなるということです。
頻度としては3か月から6か月に一度が一般的で、白さが安定してくれば半年から一年に延びることもあります。
ホームホワイトニングのマウスピースを持っている方なら、色が気になったタイミングで数日だけ再開する使い方もできます。
詰め物・被せ物との色の差
見落とされやすいのが、人工物との色の関係です。
ホワイトニングの薬剤が作用するのは天然歯だけで、レジンやセラミック、金属の被せ物は白くなりません。
前歯に詰め物がある方は、天然歯が白くなったことで、そこだけ色が浮いて見える場合があります。
気になるようであれば、白さが落ち着いた時点で詰め物をやり直し、色を合わせ直すという方法があります。
順番としては、ホワイトニングが先、詰め物のやり直しが後です。
まとめ
ホワイトニングの色戻りは、避けられない現象ではなく、進み方を遅らせられる現象です。
最初の48時間で守りの膜が戻るのを待ち、そのあとは色を口に留めない習慣を続ける。
やることはこの二つに集約されます。
完璧な二日間を過ごせなくても、カレーを食べてしまった日があっても、そこで終わりではありません。
水をひと口含む、フロスを一回通す、三か月後の予約を入れておく。
小さな積み重ねが、鏡の前の安心につながっていきます。
白い歯は、笑ったときにふと自信をくれるものだと、取材を重ねるほど感じています。
せっかく手に入れたその感覚を、どうか長く楽しんでいただけますように。