「最近、歯ぐきが痩せてきた気がする…」
「丁寧に歯磨きしているはずなのに、出血することが増えた」
「口の中が乾いて、なんとなく不快…」

40代後半から50代にかけて、こうしたお口の小さな変化を感じていらっしゃる方、多いのではないでしょうか。実はそれ、単なる年齢のせいではなく、「更年期」によるホルモンバランスの変化が関係しているのかもしれません。

こんにちは。フリーライターの吉岡朋子です。
かつて女性誌の編集者として多くの女性の悩みと向き合ってきましたが、54歳になった今、私自身も心と身体の変化を日々実感しています。特に、これまであまり気にならなかった口元の不調は、見過ごせないテーマのひとつです。

この記事では、専門家の先生方への取材を通じてわかった「更年期と歯の健康」の深い関係について、皆さんと一緒に学んでいきたいと思います。なぜこの時期にお口のトラブルが増えるのか、その仕組みを知り、今日からできる具体的な対策を実践することで、これからの人生をもっと健やかな笑顔で過ごすための一助となれば幸いです。

なぜ?更年期に増えるお口の悩み。その原因は「女性ホルモン」の減少でした

40代後半から感じる口元の変化、気のせいではありません

鏡を見て「なんだか歯が長くなったように見える」と感じたり、りんごをかじった時に歯ぐきから血がにじんだり。あるいは、朝起きた時の口のネバつきや、日中の乾きが気になったり。

これらの症状は、決して気のせいではありません。更年期を迎える多くの女性が経験する、れっきとした身体からのサインなのです。これまでと同じようにケアしているつもりでも、追いつかなくなってくる…。その背景には、女性の身体を長年守ってきた「あるもの」の減少が大きく関わっています。

鍵を握る女性ホルモン「エストロゲン」の役割

その鍵を握る存在こそ、女性ホルモンの一種である「エストロゲン」です。エストロゲンは、妊娠や出産だけでなく、女性の生涯を通じて骨や血管、肌、そして精神の安定に至るまで、全身の健康を支える重要な役割を担っています。

実はお口の健康においても、エストロゲンは縁の下の力持ちとして素晴らしい働きをしてくれています。

  1. 骨を守る:歯を支える顎の骨(歯槽骨)がもろくならないように、骨の新陳代謝のバランスを整えています。
  2. 炎症を抑える:歯周病菌による歯ぐきの炎症を起きにくくする働きがあります。
  3. 潤いを保つ:唾液の分泌を助け、お口の中の潤いをキープする役割も担っています。

このようにお口の健康の「守護神」ともいえるエストロゲンですが、閉経前後の更年期になると、その分泌量がジェットコースターのように急激に減少してしまうのです。

更年期に起こる「お口の三重苦」とは

守護神であったエストロゲンが急激に減少することで、お口の中はこれまでとは全く違う環境にさらされます。いわば「お口の三重苦」ともいえる、以下の3つの大きな変化が同時に起こりやすくなるのです。

  • 歯周病の悪化:炎症への抵抗力が弱まり、歯周病が進行しやすくなります。
  • 唾液の減少:お口のバリア機能が低下し、虫歯や口臭のリスクが高まります。
  • 骨密度の低下:歯を支える土台である顎の骨が弱くなります。

これらが複雑に絡み合うことで、更年期特有のさまざまな口腔トラブルが引き起こされていくのです。

要注意!更年期に気をつけたい具体的な5つの口腔トラブル

では、具体的にどのようなトラブルが起こりやすくなるのでしょうか。特に注意したい5つの症状について、詳しく見ていきましょう。

1. 歯周病の進行が加速する

更年期におけるお口のトラブルで、最も警戒すべきが「歯周病」です。エストロゲンが減少すると、歯ぐきの抵抗力が落ち、わずかな歯垢(プラーク)でも炎症を起こしやすくなります。 さらに、歯周病菌の中には女性ホルモンを好む種類もいるため、ホルモンバランスの乱れが菌の活動を活発にさせてしまうことも。

また、骨粗しょう症と歯周病が結びついた「閉経後骨粗鬆症性歯周炎(PMOP)」という言葉もあるほど、この時期の歯周病は歯を支える骨を急速に溶かし、歯を失う大きな原因となり得ます。

2. 口が乾く「ドライマウス」

「ドライマウス(口腔乾燥症)」も、更年期女性に非常に多い悩みです。エストロゲンの減少や自律神経の乱れが影響し、唾液の分泌量が減ってしまうのです。

唾液は、単にお口を潤すだけでなく、食べかすや細菌を洗い流す「自浄作用」、細菌の増殖を抑える「抗菌作用」、酸性に傾いた口内を中和する「緩衝作用」など、お口の健康を守るための重要なバリア機能を担っています。

このバリア機能が低下すると、次のような二次的なトラブルを招きやすくなります。

  • 虫歯(特に歯の根元にできる「根面う蝕」)
  • 口臭の悪化
  • 口内炎ができやすくなる
  • 食べ物が飲み込みにくくなる、味が分かりにくくなる(味覚障害)

3. 歯を支える「顎の骨」がもろくなる

更年期以降、骨密度が低下し「骨粗しょう症」のリスクが高まることはよく知られています。 この影響は、腕や足の骨だけでなく、歯を支えている顎の骨(歯槽骨)にも及びます。

土台である骨がもろくなると、たとえ歯自体は健康でも、歯周病の進行と相まって歯がぐらつき始め、最終的には歯が抜けてしまうリスクが格段に高まってしまうのです。

4. 舌がヒリヒリ痛む「バーニングマウス症候群」

見た目には何も異常がないのに、舌の先や縁が「やけどをしたようにヒリヒリ、ピリピリ痛む」という症状に悩まされる方もいます。これは「バーニングマウス症候群(口腔灼熱症候群)」と呼ばれ、はっきりした原因はまだ解明されていませんが、更年期以降の女性に多く見られることから、ホルモンバランスの変化やストレスなどが関わっていると考えられています。

5. しつこい「口内炎」と「口角炎」

唾液が減って粘膜の保護機能が低下すると、食事や歯ブラシなどのわずかな刺激でも口の中が傷つきやすくなります。 そのため、これまであまり縁がなかったという方でも、口内炎や口角炎が頻繁にできたり、治りにくくなったりすることがあります。

今から始めたい!更年期を乗り切るための「攻めと守りのオーラルケア」

ここまで読むと、少し不安に感じてしまったかもしれません。でも、ご安心ください。更年期は、これまでのケアを見直し、よりご自身の身体に合った方法へとアップデートする絶好の機会です。毎日の「守りのセルフケア」と、専門家による「攻めのプロケア」を両立させて、この変化の時期を賢く乗り切りましょう。

【守りのセルフケア編】毎日の習慣を見直しましょう

ブラッシングの基本+α

毎日の歯磨きが基本であることは言うまでもありません。大切なのは、歯の表面だけでなく「歯と歯ぐきの境目」にある歯周ポケットを意識すること。柔らかめの歯ブラシを45度の角度で当て、力を入れずに優しく小刻みに動かしましょう。
そして、この時期からは歯間ブラシやデンタルフロスを「必須アイテム」にしてください。歯ブラシだけでは歯と歯の間の歯垢は6割程度しか落とせませんが、これらを併用することで9割近くまで除去率がアップすると言われています。

唾液力を高める習慣

お口の天然の美容液ともいえる「唾液」をしっかり出すことも、重要なセルフケアです。

  • 唾液腺マッサージ:耳の下(耳下腺)、顎の骨の内側の柔らかい部分(顎下腺)、顎の真下(舌下腺)を、指の腹で優しく押すようにマッサージすると効果的です。
  • よく噛む:一口30回を目安に、よく噛んで食べることを意識しましょう。ガムを噛むのもおすすめです。
  • こまめな水分補給:一度にがぶ飲みするのではなく、一口ずつ、お口の中を潤すように飲むのがポイントです。

アイテム選びのポイント

ドラッグストアにはたくさんのオーラルケアグッズが並んでいますが、今の自分に合ったものを選ぶことが大切です。以下の表を参考にしてみてください。

表:更年期におすすめのオーラルケアグッズ

種類選ぶポイント期待できる効果
歯ブラシヘッドが小さく、毛先が柔らかいもの歯ぐきを傷つけず、歯周ポケットの汚れを優しく除去
歯間ブラシ/フロス自分の歯間の広さに合ったサイズを選ぶ歯ブラシだけでは届かない歯垢を徹底的に除去
歯磨き粉フッ素高濃度配合、歯周病予防成分(IPMP, TXAなど)配合虫歯予防効果の最大化、歯ぐきの炎症を抑制
洗口液ノンアルコールタイプ、保湿成分配合のもの口内の乾燥を防ぎ、刺激が少なく粘膜に優しい
保湿ジェル/スプレー就寝前や日中の乾燥が気になる時に使用口内の潤いを長時間保ち、細菌の繁殖を抑える

【攻めのプロケア編】歯科医院を味方につける

セルフケアが「守り」なら、歯科医院でのケアは「攻め」。この時期からは、歯科医院を「治療に行く場所」から「健康を維持するために通う場所」へと意識を変えることが重要です。

定期検診の重要性

お口の中は自分では見えない部分が多く、特に歯周病は自覚症状がないまま進行する「沈黙の病気」です。 ホルモンバランスが大きく変化する更年期は、これまで以上にプロの目によるチェックが不可欠。3ヶ月から半年に一度は定期検診を受け、ご自身の状態を正確に把握しましょう。

PMTCで徹底的にリセット

定期検診では、「PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)」という専門家による歯のクリーニングを受けることをおすすめします。毎日の歯磨きでは落としきれない細菌の膜(バイオフィルム)を徹底的に除去することで、歯周病や虫歯のリスクをぐっと下げることができます。

婦人科との連携も視野に

もし骨粗しょう症の治療を受けていたり、更年期症状の緩和のためにホルモン補充療法(HRT)を行っていたりする場合は、その情報をぜひ歯科医師に伝えてください。 お薬によっては歯科治療に影響を及ぼす可能性もあるため、医科と歯科が連携することで、より安全で効果的な治療計画を立てることができます。

食生活とライフスタイルで、内側から口元を健やかに

オーラルケアと合わせて見直したいのが、毎日の食事と生活習慣です。

骨と歯を強くする食事

歯を支える骨を健やかに保つために、以下の栄養素を意識的に食事に取り入れましょう。

  • カルシウム:乳製品、小魚、豆腐、小松菜など
  • ビタミンD:きのこ類、鮭、さんまなど(カルシウムの吸収を助けます)
  • ビタミンK:納豆、ほうれん草、ブロッコリーなど(骨の形成を促します)
  • 大豆イソフラボン:豆腐、納豆、豆乳など(エストロゲンに似た働きをします)

ストレスは口元の敵

更年期は心身ともにゆらぎやすい時期。ストレスは無意識の歯ぎしりや食いしばりを引き起こし、歯や顎に大きな負担をかけるだけでなく、全身の免疫力を低下させ、歯周病を悪化させる一因にもなります。
意識的にリラックスできる時間を作り、十分な睡眠をとるなど、ご自身をいたわる時間を大切にしてください。

まとめ

今回は、更年期と歯の健康という、見過ごされがちだけれど非常に大切なテーマについてお話ししました。

女性ホルモン「エストロゲン」の減少は、歯周病の悪化、ドライマウス、顎の骨のもろさなど、お口の中にさまざまな変化を引き起こします。しかし、それは決して抗えない老化現象ではありません。

  • お口の変化は、身体からの大切なサインと捉えること
  • 毎日のセルフケアを、今の自分に合わせてアップデートすること
  • 「年齢のせい」と諦めず、信頼できる歯科医院をパートナーにすること

この3つを心に留めておくだけで、お口の健康状態は大きく変わってきます。
身体の変化に戸惑うことも多い時期ですが、それは同時に、ご自身の身体とじっくり向き合う良い機会でもあります。この記事が、皆さまがこれからの人生を、健やかな口元と素敵な笑顔で過ごしていくための、ささやかなきっかけとなれたら、これほど嬉しいことはありません。

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